WSI(Whole Slide Image)とは、病理組織のガラススライド全体を専用のスキャナーで高解像度にデジタル化した画像データです。顕微鏡で観察するレベルの極めて微細な情報を保持しており、近年の医療AI分野、特にディープラーニングを用いたがん細胞の自動検出や病理診断AIの開発において不可欠な基盤データとなっています。
WSIとは
WSI(Whole Slide Image:ホールスライドイメージ)とは、病理学において患者から採取した組織や細胞のガラススライド全体を、デジタル病理スキャナーを用いて高解像度で取り込んだギガピクセル級の超巨大画像データのことです。
詳しく解説
WSIは、従来の光学顕微鏡による診断をデジタル化する「デジタル病理学」の基盤技術です。1枚のWSIは数十億ピクセル(ギガピクセル)に達することが多く、容量も数ギガバイトに及びます。そのため、拡大・縮小や表示位置の移動がスムーズに行えるマルチレゾリューション(ピラミッド構造)形式で保存されるのが一般的です。近年のAI技術、特にディープラーニングの発展により、このWSIを解析対象とした病理診断AIの開発が活発化しています。WSIを用いることで、従来は病理医が顕微鏡を目視して行っていたがん細胞の領域特定や分類を、高い精度で自動化・支援することが可能になります。しかし、画像サイズが非常に大きいため、AIモデルに直接入力することは困難であり、画像を小さな領域に切り分けるパッチ分割などの前処理技術が重要となります。
具体例・使われ方
WSIは主に医療機関や研究機関で活用されています。例えば、がんの疑いがある生体組織のWSIに対して、病理診断AIが自動的にがん細胞が存在する可能性の高い領域を赤色でハイライトし、病理医の見落としを防ぐ補助ツールとして機能します。また、創薬研究において数千枚規模のWSIから特定のバイオマーカーの発現量を定量評価するプロセスを自動化し、臨床試験のスピードを大幅に向上させる事例もあります。
似た用語との違い
WSIと通常の顕微鏡画像との違いは、撮影範囲と解像度のレベルにあります。従来のデジタルカメラを搭載した顕微鏡画像は、顕微鏡の視野(FOV)と呼ばれる局所的な一部の領域のみを切り取った画像です。これに対し、WSIはスライドガラス上の組織全体を格子状に自動撮影し、それらを高精度に結合(ステッチング)して1枚の巨大な画像にしたものです。また、医療分野で使われるレントゲンやCTなどのDICOM画像とも異なり、WSIは極めて高解像度であり、細胞核の微細な形状まで観察できるレベルのズーム性能を持っている点に特徴があります。
注意点
WSIを病理診断AIで扱う際の注意点として、膨大なデータサイズによる計算コストとストレージへの負荷が挙げられます。1枚の画像が数ギガバイトになるため、学習や推論時にはパッチ分割による処理が必須であり、それに伴うアノテーション(正解ラベル付け)作業にも専門知識を持つ病理医の多大な労力が必要となります。また、スキャナーの機種や組織の染色状態の違いによって画質にばらつきが生じやすく、AIの汎化性能を担保するための標準化やデータ拡張技術が求められます。